とにかく「煽りV」を語りたい。
飽きもせずにまたPRIDEの昔話。
PRIDE「勝手にベストバウト」に続いて、今回は「煽りV」について語りたい。
「煽りV」とは”煽りVTR”の略で、ボクシングなんかの試合前に流れる、
A:「なんだコノヤロー」
B:「ふざけんなバカヤロー」
みたいなやつをイメージしてもらえれば、「あぁ、あれね」となると思う。
「あれの何が楽しいのか」とも。
PRIDEのそれは、今イメージしていただいた”あれ”とはだいぶ違う。
それは失笑を誘うチンピラの問答劇では無く、
時に熱く、時に楽しく、時に切ない物語で、観客・会場の空気感を作り上げる、洗練された一つの映像作品である。
他の格闘技、スポーツ番組とは明らかにセンスを異にする「煽りV」が、選手、試合と共にPRIDEにおける欠かせない一要素だったことは、一時制作から離れていた映像ディレクター佐藤大輔氏とナレーション立木文彦氏の復帰の際、会場でそれがデカデカと発表され、あまつさえ大歓声で迎えられたことからも疑いようのない事実である。
数多のPRIDEファンから愛され、時に試合すら超える熱を生み出した名作の数々を紹介していく。
こんな映像だよ、というコメントを好き勝手に書いているので、興味が持てたらぜひ観てみてください。
(PRIDE 無差別級GP1回戦)
動画:https://youtu.be/kA-aURidxNI
気付けばどこかへ置いてきた。
いつしか無かったことにした、「将来の夢」。
本気の「夢」を抱き、目指した人はどれだけいるだろうか。
形は違えど「世界で一番強くなりたい」という夢を持ち、今なお追い続ける2人。
夢の終点はどこにあるのか。
この戦いの先に、彼らは何を見るのか。
5月5日、こどもの日。
夢に折り合いをつけて生きる「大人」には、まだなれない。
◆語りたいポイント
名作煽りといえばやっぱりこれ。
愛すべきキャラクター性でPRIDEファンの心をつかんだ、”リアルプロレスラー”美濃輪育久。
対するはGP優勝候補筆頭、”戦慄のターミネーター”ミルコ・クロコップ。
下馬評ではどう考えてもミルコ有利。
敗色濃厚な美濃輪をどう煽るのやら、と思っていたところ、予期せぬ切なさMAXシリアス路線。
ノスタルジーを絶妙に味付けするBGM、Fantastic Plastic Machine/「Don't you know?」。
結果はやはりミルコの完勝だったが、
この煽りによって、破れた夢の儚さ、また立ち上がる強さというストーリーが生まれ、
凡戦が価値あるものに。
会場の空気を作り上げ、試合の意味合いすら変えてしまう。
煽りVの魅力、凄味は、この一本に詰まっている。
(PRIDE武士道 其の十三 ライト級王者決定戦)
動画:https://sp.nicovideo.jp/watch/sm1228492
落日、風前、
火の玉ボーイ。
手放すな。守り抜け。
王者の誇り。
三度目は、無い。
背水の、防衛戦。
◆語りたいポイント
怒涛の10連勝で王座獲得の直後、まさかの一本負け。
さらにフジテレビショックによるPRIDE消滅の危機。
二重三重の逆風吹き荒れる中、タイトル防衛に臨む五味に思いっきり肩入れした名煽り。
「Let Me Entertain You」のフレーズに乗せて、PRIDEの未来を五味に託す万感のエール。
五味ファンとしては超ブチ上がったなぁ・・・
(試合は・・・まぁ、うん。)
(PRIDE GP2004 準決勝)
動画:https://sp.nicovideo.jp/watch/sm31031183
今年もまた、夏が来た。
季節は廻り、時は過ぎ去る。
それでも、まだ。
逃れられない過去と。
変わらぬ期待と重圧に、いま。
再び、向き合う。
◆語りたいポイント
「人気先行で扱いが実力に見合ってない」
「弱い相手とだけ当ててプロテクトしてるのが見え見え」と、
プロレスを軽視する一部のファンからは、白い目で見られていた小川直也。
そんな小川がついに、押しも押されぬ世界最強の男、ヒョードルと戦う。
「これで『小川は強い』みたいな扱いがやっと無くなるか。よきかなよきかな」と、勝手に留飲を下げる彼らに向けた、小川敗戦を前提としたVTR。
「確かに、小川はこのリングで最強ではないかもしれない。」
「しかし、逃げずにリングに向かう小川を責める理由はどこにもない。」
スレたファンに、これは響いた。
かくして、観客は気持ちよく小川を応援し、小川は破れてなお価値を下げない、という理想的な状況を、映像一本で作り上げた。
煽りVアーティスト、佐藤大輔の真骨頂。
(エヴァへのオマージュ全開なのも個人的にポイント高し)
(PRIDE GP2003 準決勝)
動画:https://sp.nicovideo.jp/watch/sm1230052
”道”を極めた男がひとり。
安寧を捨て、新たな道へ。
跳梁跋扈す茨道。
生きて再び帰すもがな。
白き道着を身に纏い。
修羅場に赴く男がひとり。
◆語りたいポイント
日本人では勝てない。
というか、手練れの外国人ですら勝てないのに日本人が勝てる訳がない。
いかに柔道金メダリストと言えど、それは同じこと。
その戦いを”修羅場”と称し、死地に向かう吉田を”生贄”と例える、悲壮感に満ちたVTR。
しかしそこに確かに刻まれた、吉田の意志と覚悟。
試合でも、柔道を武器に堂々と渡り合い、
さらには不利な打撃でも真向から殴り合いを仕掛けるなど、気の強さを存分に見せた吉田は、敗れたものの会場を大いに沸かせ、男を上げた。
煽りVと試合内容が完璧にハマった名勝負。
(PRIDE男祭り2005~頂~ ライト級GP決勝戦)
動画:https://youtu.be/IR4VvaIEjiM
世界一。
途方もない夢は、すぐそこに。
日本人、ふたり。
頂に立つのは、ひとり。
◆語りたいポイント
どちらが勝っても日本人初のPRIDE王者誕生。
大晦日の頂上決戦にふさわしい、「日本男児が大気圏突破。」の名文句。
「Good-bye,American! Good-bye,Brazilian!」からの流れには、当時死ぬほど興奮したことを覚えている。
そして試合も煽りに負けずの名勝負。
言うこと無しのベストバウトだった。
・・・なのに、お茶の間にどれだけ届いたのだろう。
年明けの学校。
PRIDEの話題は出ても、この試合は触れられない。
こんなにも素晴らしいものを観たのに、思いを分かつ相手は無し。やれかなし。
(PRIDE武士道 其の九 ライト級GP1回戦)
動画:https://youtu.be/e5Ht1s-m7bo
新しき時代。新しき力。
日本が世界に誇る二つの才能。
どちらかが消える。どちらかが潰す。
無慈悲で、残酷で。
極上の、果し合い。
◆語りたいポイント
PRIDEライト級GP。
1回戦にして事実上の決勝戦とも言われた、新旧 修斗世界王者対決。
絶対の自信と自負ゆえ、火花を散らす両者。
売り言葉に買い言葉。由緒正しき”煽り”V。
T-REX「20世紀少年」に、「21世紀の殴り合い」のキャッチコピー。
(PRIDE男祭り2004 スペシャルワンマッチ)
動画:https://youtu.be/sMUcFjvPopk
あの日失った全ては。
もう、戻ってはこない。
ただ、確かめたい。
間違ってはいなかったことを。
死に場所を見つけた、彷徨える”U”の魂。
これは、鎮魂の物語。
◆語りたいポイント
「UWF」が気になりだしたのは、このVTRがきっかけだった。
大晦日のビッグイベント。
数多のビッグマッチの中に差し込まれた、よく分からないカード。
歳のいったおっさんvsグレイシー。
プロレスとグレイシーの因縁の物語。
よく分からないが怪しくて、なんかヤバそうな団体、
「UWF」が頭に刻まれた、思い出深い煽りV。
(PRIDE男祭り2006 ライト級ワンマッチ)
動画:https://youtu.be/7Kcf92iW1ac
帰って来る。
火の玉ボーイが、帰って来る。
怒りに任せてブン殴る、
ヤバい五味が、帰って来る。
年の瀬、紅白、除夜の鐘。
もう一つある、風物詩。
今年の鬱憤、今年のうちに。
みそかの祭り、大喧嘩。
◆語りたいポイント
苛立ちを隠さず煽り倒す五味と、臆せず言い返す石田。
いわゆる”普通の”試合前VTRのような舌戦も、
魅せ方ひとつでここまでスマートかつ”寒く”ないものになる。
キャラの立つ2人の素材の味を生かした、
シンプルゆえに佐藤大輔のセンスが光るVTR。
五味ファンとしては、「なんにもできないと思うよ」の言葉をこの上ない形で有言実行した試合内容も含めて最高。
(DREAM.2 ミドル級GP1回戦)
動画:https://youtu.be/_RUQVIQmBWg
理想。幻想。夢うつつ。
最強、「UWF」。
男は、過去を捨てた。
男は、過去を守る。
”U”という過去。
”U”という愛憎。
”U”という螺旋。
その物語が終わるとき、二人は。
そして我々は、何を見るのか。
◆語りたいポイント
伝説、「UWF」。
プロレスと格闘技の狭間。
その臨界点に生じた、美学、狂気、幻想。
渦中にいた二人。
それぞれにとっての、「UWF」という狂った季節。
いまだに人々の心を揺り動かす、「UWF」という過去。
煽りVという枠を超えた、ドキュメンタリーのごとき大作。
(Dynamite!!2008 スペシャルワンマッチ)
動画:https://youtu.be/hoLvpqXsLb8
最強、「UWF」。
幻想を繋ぎとめた、二人の英雄。
時代を背負った、IQレスラー。
我が道を行く、孤高の天才。
すれ違い続けた二人が、
あらゆる過去と愛憎を経て、ついに交わる。
今更闘う意味は。
あるべき結末は。
彼らの中に、答えはあるのか。
確かめるために、傷付け合う。
”PRIDE”の忘れ形見。
最後の、真剣勝負。
◆語りたいポイント
田村と桜庭。
グレイシーという呪縛から、日本格闘技界を救った二人。
直接対決を望む声は多かったが、”頑固者”田村は首を縦に振らず、実現に至らぬままPRIDEは消滅。
時は流れ、全盛期を過ぎた彼らに、対戦を望む声はいつしか無くなり、それは、幻のカードとして人々の心にしまわれた、はずだった。
Uインターで同じ釜の飯を食い、袂を分かち、それぞれの道を歩み、共に歳を取った二人。
UWFも、PRIDEすら過去のものとなった今、彼らは拳を交える。
その意味は、その歴史は、このVTRに詰まっている。
いかがだっただろうか。
映像が見つからず紹介できなかった名作がまだまだあるので、もし見つかれば更新するかもしれない。
また佐藤大輔氏は、格闘技以外の”煽りV”も手掛けている。
これらもかなりイカしているので、よろしければ。
特に電王戦が好き。
・2006 F-1 サンマリノGP OPENING
・第一回将棋電王戦