続・PRIDE私的ベストバウト
という訳で前回の続き、PRIDEベストバウト。
5位から。
・5位
(PRIDE無差別級GP 準決勝)
PRIDE史上、最も面白い寝技対決。
熟練者同士の試合は、得てして膠着しがち。
技術の進歩と反比例するように、観客に”伝わらない”試合が増える。
「まぁそんなもんだよね~。でもな~」というモヤモヤを抱えた総合ファンに、
「寝技も面白いんじゃ!!!」という気概を叩きつけた名勝負。
言わずと知れた”柔術マジシャン”ことノゲイラのテクニックと、ジョシュの”キャッチレスリング”が超高次元で見事にスウィングしたこの試合は、まあ動くこと動くこと。
一本取りかけてはスイープ、の連続で目まぐるしく攻守が入れ替わり、はたまたスタンドでもKO寸前の打ち合いもあり、最後の最後まで目が離せない15分間。
魅せる意識、ではなく純粋に技術の勝負でここまで観客を魅了できることを証明した2人。
ただ、”キャッチレスリング”とは何なのかは未だに知らない。
・4位
(PRIDE.20)
※動画なし…
PRIDEの歴史は、外敵との闘いの歴史でもある。
グレイシーという未知の存在に、”最強”高田が敗れ、桜庭が打ち勝った。
その桜庭の前に、新たな外敵、ヴァンダレイ・シウバが現れた。
英雄・桜庭を破ったシウバは当初完全なヒールであったが、
殴り勝つ明快なファイトスタイルと、絶対的な強さを示し続けることで、次第にファンの心をつかんでいった。
そこに再び登場した史上最強の外敵。
K-1からの刺客、ミルコ・クロコップ。
押しも押されぬK-1トップファイターであり、世界最高峰の打撃を持つ男。
それを、かつての”外敵”シウバが、PRIDE代表として迎え撃つ。
立ち技か、総合か。
時代は格闘技ブームのさなか。
一括りに”格闘技ファン”といっても、K-1=立ち技、PRIDE=総合のどちらかに偏った思い入れがあるもの。
トップ団体の、トップ選手同士の闘いはイデオロギー抗争を巻き起こし、熱狂を呼んだ。
異様な熱気の中、試合が始まる。
ミルコの左ミドルがシウバを捉える。
初めて耳にする、鋭く、鈍く、重い音。
PRIDEファンに動揺が走る。
僅か1発で敗北すら予見させる。
恐怖すら覚える、そんな音。
しかしリング上のシウバは、会場の誰よりも勇敢だった。
そんな蹴りを受けてなお、前に出る。
赤く腫れた脇腹を押して、左右のフックで飛び込んでいく。
K-1ファイター ミルコを相手に、寝技ではなく、打撃で勝負にいく。
それは、PRIDEを背負うという矜持ゆえか。
試合はドローに終わったが、冷徹無比なミルコと、気迫剥き出しのシウバ、
両選手の味が全面に出た名勝負に、判定決着はむしろ野暮というもの。
異種格闘技の、そして団体抗争の面白さ、ここにあり。
・3位
(PRIDE GP 2003 暫定ヘビー級王者決定戦)
煽りV:https://sp.nicovideo.jp/watch/sm9760864
試合:https://sp.nicovideo.jp/watch/sm29308796
明快な構図、明快な展開、そして劇的な結末。
格闘技の面白さが全て詰まった、奇跡のような試合。
格闘技の魅力を聞かれたら多分、この試合を見せる。
K-1からPRIDEへ電撃移籍後、強豪を次々と左ハイキックで葬り去り、飛ぶ鳥を落とす勢いで王座戦に乗り込むミルコ。
柔術マジシャンの異名を取る寝技テクニックと驚異的な粘り強さで、数々の名勝負、逆転勝利を生んできたノゲイラ。
打撃と寝技。
それぞれの”最強”がベルトを争う。
1ラウンド。
勢いに勝るミルコが、そのままノゲイラを飲み込む。
重く速いパンチが、蹴りが、的確にヒットする。
苦し紛れのタックルも、驚異的な腰の強さで全てかわす。
追い詰められるノゲイラ。
ミルコの左ハイが、ついにノゲイラを捕らえる。
倒れこむノゲイラ。間髪入れず追撃を仕掛けるミルコ。
KO寸前で、ラウンド終了のゴング。
圧倒的。強すぎる。
誰もが思った。
ミルコが勝つ。
2ラウンド。
開始直後、一瞬の隙。
懐に入り込み、タックル。
倒れこむ。マウント。もがくミルコ。
腕が、空いた。
文字通り、一度限りのチャンス。
ミルコは呆然とし、ノゲイラは神に感謝を捧げる。
天国と地獄。
歓喜と絶望。
あまりにも残酷、あまりにも無慈悲。
勝者と敗者を分ける、一瞬の分水嶺。
これこそが、総合格闘技。
・2位
(PRIDEライト級GP 1回戦)
煽りV:https://youtu.be/e5Ht1s-m7bo
※試合の動画見つからず…
それは、一太刀を取り合うが如く。
修斗、新旧世界王者対決。
修斗デビューから破竹の勢いで勝ち続け、一気に世界王者へ。
PRIDE参戦後も7戦全勝。満を持してライト級GPに乗り込む、敵無しの”火の玉ボーイ”、五味隆典。
「日本人は力では外国人に勝てない」という常識を拒否し、技ではなく力で勝ちえる肉体を作り上げ、五味の去った修斗で世界王座を奪取。
現王者として五味に挑戦状を叩きつけた”クラッシャー”、川尻達也。
日本人同士による、事実上の世界一決定戦は、その名に恥じぬ至高の一戦。
開始直後から、KO必死のパンチの応酬。
薄氷を踏む間合いの取り合いから、先の先を読み合うような攻防が続く。
互角の打ち合いの中、五味のボディで均衡が崩れ始める。
徐々に徐々に効き始める五味の打撃。
川尻もローを交えて反撃するが、決定打には至らない。
そんな中、首相撲から五味がヒザを出した隙をつく、川尻のタックル。
狙いすましたテイクダウンを、五味は間一髪で逃れる。
川尻に僅かに浮かんだ落胆の色。
その揺らぎを、五味は見逃さなかった。
怒涛のラッシュで畳みかける五味。
川尻も驚異的な粘りを見せるが、火のついた五味の打撃を浴び続け、ついに崩れ落ちる。
終わって初めて、息をのんでいたことに気付く。
王者同士の意地と意地。極限まで張り詰めた空気。
日本が世界に誇る、兵どもの殴り合い。
・1位
(PRIDE GP 2000)
煽りV〜試合:https://youtu.be/cxvldZxT3EY
日本格闘技界におけるターニングポイント。
この試合が無かったら、格闘技ブームは起こらず、PRIDEの発展もなかったかもしれない。
格闘技に興味が無い人も「PRIDE」という名前は何となく知っている、という状況は、この試合から生まれたと言えるだろう。
その日、桜庭和志は時代の寵児となり、格闘技をメジャーシーンへ押し上げた。
前戦でホイラーを破り、ホイス・グレイシーとの対戦に辿り着いた桜庭。
ホイスはUFCを2連覇し、一族の名を世界に広めた張本人であり、ホイスからの勝利は、ホイラーからのそれとは重みが全く異なる。
グレイシー側は先のホイラーの敗戦を、「ホイラーはギブアップしていない」として認めておらず、
今回の試合にあたり、ラウンド無制限、レフェリーストップ無し、判定無しという完全決着ルールを要求。
桜庭は「全部相手の望み通りのルールで勝てば文句ないでしょう」と言い放ち、全ての要求をのみ試合に臨む。
桜庭は躍動した。
寝ても立っても全局面でホイスを圧倒。
隙を見てはモンゴリアンチョップ、炎のコマなどのプロレス技さえも繰り出した。
しかし、決定打は出ない。
どちらかがギブアップするまで試合は終わらない。
終わりの見えない無間地獄。
ラウンドが進むにつれて、戸惑いにも似た異様な雰囲気が会場を包む。
試合時間が1時間を超えたころ。
ローキックを浴び続けたホイスの足が、悲鳴を上げ始めた。
桜庭のローに、ホイスの足が大きく流れる。
すかさず畳みかける桜庭。
ポーカーフェイスを崩さないホイスだが、ダメージはあまりにも明白だった。
6ラウンドが終わった。
グレイシー陣営は慌ただしく言葉を交わしている。
異変は明らかだった。
セコンドアウトの声がかかっても、ホイスは座ったまま動かない。
レフェリーが歩み寄ったその時、タオルが投げ込まれた。
試合時間、実に90分。
グレイシー柔術の創設者エリオは、桜庭と握手を交わし、笑みを浮かべた。
グレイシーが負けを認めた。桜庭が、日本人が、ついにグレイシーを完全に破ったのだ。
高田がヒクソンに敗れて以来、続いていたグレイシーの時代。
その呪縛を解き放った英雄、桜庭和志。
その時、桜庭は格闘技の歴史を一つ、前へと進めたのである。
あれから19年。
Mixed Martial Arts=MMAという呼称が定着し、
スポーツとしての競技化推進と技術向上によって、「総合格闘技」すら過去のものとなった。
桜庭vsホイスの特別ルールがいい例だが、
当時の総合格闘技は、今では考えられないほど未成熟な世界であり、ただ美化してよいものでもない。
桜庭はその後、体重差を軽視した興行性重視のマッチメイクにより、選手寿命を縮めたとも言われており、やはりただ美談としてのみ扱うべき物語ではないとも思う。
しかし、黎明期ゆえの曖昧さ、怪しさ、混沌によって生まれた狂気じみた熱があったこともまた事実だ。
MMAの進化を否定する気は毛頭ない。
しかし、”あの頃”だけにあった熱狂に思いを馳せることくらいは、許されてもいいのではないか、とも思う。
長過ぎて引くわ。
誰も読まない独り言と思い好き勝手に書き散らかしたが、もし何かの間違いで読んでくださった方がいるとしたら、ぜひ試合を観てみてください。
次回、名作煽りV編へ続く。