「リズと青い鳥」と「ピンポン」の親和性
何かしらかこつけてリズについて語りたい、というのは否めない。
でもちょっとある気がするのでとりあえず書いてみる。
「リズと青い鳥」と「ピンポン」の話です。
リズで描かれる希美とみぞれ。
ピンポンで描かれる星野と月本。
結構近しくて、並べてみると面白いのではないかと。
・星野と月本
幼い頃から卓球で非凡な才能を発揮し、クラスの中心にいた星野(ペコ)。
寡黙さ故にイジメられる月本(スマイル)。
おそらくは何の気なしに、星野は月本を卓球に誘う。
笑わないから"スマイル"のあだ名を付けられた月本は、卓球を始めて一度だけ笑顔を見せる。
真逆な性格の二人を、卓球が繋ぐ。
・希美とみぞれ
誰とでも親しくなれて、明るく活発な希美。
内向的で、感情を表に出さないみぞれ。
希美の誘いで、みぞれは吹奏楽を始める。
みぞれにとっての世界は望美によって開かれ、希美によって始まり、希美はみぞれの全てになる。
みぞれにとって吹奏楽は、希美と繋がるための唯一の手段だった。
・世界の反転
月本は静かに才能を表し始める。
高校一年の夏。星野を完封した選手を、月本は圧倒する。
星野にとって月本はいつまでも、後から自分に着いてくる存在だった。
星野は現実を受け入れられず、ラケットを捨てる。
みぞれもまた、希美を越えてゆく。
籠から放たれた青い鳥は、羽を広げ大空へ飛び立つ。
青い鳥を見遣る希美は、その圧倒的な演奏に打ちのめされ、初めてみぞれを特別な存在として意識する。絶望の対象として。
・その先へ
「ピンポン」では「リズ」で描かれていない"その先"の物語がある。
月本の実力に打ちのめされた星野は、紆余曲折の末 再び卓球に向き合う。
月本は何も言わずに星野を待ち続ける。
かつて自分を救い上げてくれた"ヒーロー"が帰ってくることを。
そして県大会決勝の舞台。
コートに立った星野に背を向け、月本は静かに呟く。
「おかえり、ヒーロー」
・希美のこれから
「ピンポン」は星野の帰還で大団円を迎えた。
では「リズ」はどうかといえば、たぶんそうはなり得ない。
取り残された希美は、これから前を向いて歩めるのか。
「リズ」の原作者 武田綾乃さんはユーフォシリーズを書く上で、
「努力は報われる。ただしそれは本人の望む形とは限らない」
というルールを置いている、と語った。
みぞれの努力(無自覚な努力ではあるが)は、希美がみぞれを一個人として強く意識したという点で、残酷ながらも大きな一歩として実を結んだと言えるだろう。
希美の物語は、希美のこれからはまだ紡がれていない。
爽やかな後味の「ピンポン」と、ざらつく焦燥を残す「リズと青い鳥」。
並べることで際立つ、青春の光と苦味。